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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)126号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  取消事由一について

本件商標が、別紙第一の構成からなり、指定商品を第三二類「加工食料品、その他本類に属する商品」とすることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

ところで、商標の類否の判断は、商標が使用される商品の主たる需要者層等をも考慮して、需要者の通常有する注意力を基準としてすべきものであるが、本件商標の指定商品から考えると、本件商標が使用された場合の主たる需要者は、最終的には主婦、老人等を含む一般消費者であると判断して差しつかえない。

本件商標は、中央図形部分(以下においても「本件図形」という。)とそれを挟んで両側に横書きされた「カク」と「イチ」の片仮名文字とからなるが、本件図形は肉太の□(カク)図形の中に肉太の筆書体で一の文字を配し、看者に強い印象を与えるのに対し、片仮名文字の部分は、本件図形と対比してかなり小さくまた細く表されているから、本件図形に比べて相当印象が弱いことは否定できない。したがつて、殊に一般消費者である需要者が本件商標を見たときに、本件商標の全体を一体としてのみ把握せず、片仮名文字部分を切り離して本件図形のみに着目し、これによつて本件標章を他のものと識別することがありうることは、見やすい道理である。

そうすると、本件商標のうち本件図形の部分が看者の注意を惹き、本件図形の部分が独立しても自他商品の識別機能を果しうる、とした審決の認定判断に誤りはないというべきである。

もつとも、原告は、本件図形中の正方形部分はいわゆる暖簾記号の構成要素として「カク」と称され、またその内部に漢字「一」が表されることは容易に認識、理解しうるから、片仮名文字「カクイチ」は本件図形から生ずる称呼を特定したものであり、本件商標における本件図形と片仮名文字部分は相互に関連し合う一体不可分のものである、と主張する。

しかしながら、本件商標の外観と本件商標の指定商品に係る最終的需要者が一般消費者であることとをあわせて考慮すると、上記のとおり、看者が常に原告主張のように本件図形と片仮名文字部分を一体不可分にのみ観察するとは限らず、したがつて、片仮名文字部分から生ずる称呼と無関係に本件図形にのみ着目することがありうるというべきであるから、原告の主張は理由がない。

三  取消事由二について

《証拠略》によれば、引用商標は、別紙第二に示す構成からなり、第三二類「食品、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として、昭和五三年七月一八日登録出願され、昭和五八年四月二七日登録されたことが認められ、その指定商品は本件商標と共通し、その需要者も共通であると判断される。

そこで、本件図形と引用商標とを比べてみると、両者とも、黒い極太の方形輪郭を描き、その中央部に肉太の横線「一」を上下左右に余白を設け配されている点で一致し、両者の外観上の印象が共通することは明らかである。両者の指定商品に係る需要者の注意力を想定しそれを基準として、両商標の付された商品に需要者が時と所を異にして接した場合のことを考えると、両者は、外観上相紛らわしいものとして商品の出所の混同を生ずるであろうことは否定し難いといわなければならない。

もつとも、両者をこと細かに対比すると、なるほど、方形輪郭部分が、本件図形ではほぼ正方形であるのに対し、引用商標ではやや横長の長方形である点、中央部に配された横線部分が、本件図形では漢数字風の形状であるのに対し、引用商標では幾何学的な形状である点、これらの差異に伴い中央横線部分の上下左右の余白部分の占める割合、形状に僅かな差異がある点で相違する。しかしながら、これらの差異が両者の構成全体の外観に与える影響は極めて僅かであり、上記のとおりいうのに妨げとはならない。

なお、原告は、<1>両者の外側輪郭部分は、本件図形では「カクイチ」との称呼が生ずる暖簾記号の決定的な部分であり、両者の外側輪郭部分の構成の図形全体に占める割合も大きいから、この部分の両者の差異を軽視する審決の判断は誤りである、<2>両者の内部構成部分は、本件図形では毛書体の和数字「一」を表したものであるのに対して引用商標では幾何学模様で漢数字「一」を表したものではないし、余白部分にも差異がある、<3>本件図形は一見して和風紋章的な印象を与えるのに対し、引用商標は純粋幾何学的な印象を与える、と主張する。

しかしながら、前記二において検討したとおり、看者が本件商標を観察する場合常に本件図形と片仮名文字部分を一体不可分にのみ観察するとは限らず、片仮名文字部分から生ずる称呼と無関係に本件図形に着目することがありうること、上記のとおり、両者の差異が構成全体の外観に与える影響は極めて僅かであり、両者は外観上共通する印象を与えるというほかはないことを考慮すると、原告の主張は理由がない。

四  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田 稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

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